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その時、彼等は近くに坐つている房一に気づいた。話に出ている鍵屋の分家とは、まさに房一の借りている家のことだつたし、その所有者は神原喜作にちがひなかつたから。
昨年の冬あたりから、何を思つたのか彼は写真に残つている先代のやうに髯をのばしはじめた。最初のうちはもじやもじやしたごま塩の汚たならしい色で、皆から可笑をかしがられてばかりいたが、のびるにしたがつて白味を加へ、似合つて来、そのあることがあたり前にさへなつていた。殊に病中には、彼がもどかしがつて口をあくあくさせる度に、髯のはしがびりびりふるへ、はね返り、遠くにいても彼が何か云ひたがつていることが判つたくらいで、したがつて彼の身にもついていれば、はたの者の目にもすつかり馴染まれていたのである。
「うむ、うむ」
傍にいた赭あから顔の老人が低い声で云つた。
房一はきつぱり云つた。男は、これは話が判る、といふやうな顔をした。それに押つかぶせるやうに、
「何しに来た?」
「患者さんですよう」
「だつて、喜作さんはこの土地にはいないでせう」
小谷は酔つて来たのだらう、何度も同じ手真似をして見せた。
と、下の男は睨み上げた。
道平が口をうごかせるまでには随分手まどつた。
「あいつももう仕かたがないのですよ。『青ペン』通いばかりしているのですから。」
「大石練吉です」